2012/10/28
蜜をなめるように甘くはない
嵐の前ぶれのような不穏な空、吹き荒れる風に飛び散る雨。
お出かけはドーナツ屋さんとスーパーだけ、おとなしく過ごす日曜日にする。
平日に学費と生活費のための副業を始めた。
一日が20時間になったかと思うくらい、毎日があっという間に過ぎてゆく。
「忙しい」という言葉は好きじゃないし言いたくないけれど、つい口から出そうになる。
そんなある日、「心に残るファンタジー小説ベスト10」みたいな記事が目に入った。
そこに挙げられていた、気になっていたけれどまだ読んだことがなかった本を2冊、
さっそく図書館に予約した。
『トムは真夜中の庭で』
いまの私なら、時計が13回鳴っても、無視して眠り続けてしまうだろうから、
ふしぎな庭には、たどり着けそうもない。
いくつかの条件と想いがそろったときに、過去になったはずの時間があらわれる。
それは「タイムトラベル」というよりも、もっと日常的な色彩の物語。
愛すべきジャック・フィニィの『ふりだしに戻る』を思い出す。
不満を抱えた子供と隔てられた庭という設定は、『秘密の花園』を彷彿とさせる。
ラストシーンのトムとハティの姿は、第三者の視点で語られることで、ますます鮮やかになる。
『クラバート』
子供向けのお話、とあなどっていたわけではない。
でも読み始めたら、あらためて驚いてしまうくらい、面白い。
コンパクトな分量の中に物語がひしめいている。物語の凝縮されたエッセンス。
幼い私も夢中になっただろう、今もわたしを惹きつける、ある種の普遍的なトーン。
少年の成長物語、という点で、『デイヴィット・コパフィールド』にも通じるところがある。
あるいは、少年とカラスの組み合わせが、『海辺のカフカ』を連想させる。
ハッとするような文章がちりばめられているという点でも、似ているかもしれない。
「(逃げ出せって?)と、クラバートは考えた。(いったいなにから?仕事は、たしかに、蜜をなめるように甘くはない。[… ]しかし、食事はよくて、たっぷりあるし、家もちゃんとある。朝起きたときから夜寝る場所が確保されていることが、わかっているのだ。それも、暖かくて、かわいていて、かなりやわらかな、なんきん虫もしらみもいない寝床だ。こんなことは門付けをして歩いているころには、夢にも想像できなかったことではないか?)」 (プロイスラー『クラバート』、偕成社文庫、1985年、上36-37頁)
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